敦 盛
(あつもり)
祗園精舎の鐘の声、諸行無常の響きあり 沙羅双樹の花の色、盛者必衰の理を現す 奢れる者は久しからず 只春の夜の夢の如し 猛き者も終には滅びぬ 偏に風の前の塵に同じ 平家物語の最初の一節です。大変流れの良い文章だとは感じませんか? それもそのはず。「平家物語」には、色々なテキストがあるのですが、その主たるものは、琵琶の音に乗せた弾き語り用のものなのです。親しいお囃子方の奥様は、「謡みたいよね。」と仰いますが、謡もこの物語も、音楽に乗せるという観点から捉えますと、耳に心地よいリズムを持たなくてはならないことが、なるほど納得できます。 現代のように決まった休日もなく、娯楽もそれほど多くない中世には、人が多く集まる場所と言うのは限られたものでした。たいていは、神社や寺の境内。人が集まれば市も立ち、となれば何か見世物も出ようというのは、古今東西変わらぬものです。日本版吟遊詩人である琵琶法師が現れたのは、このような背景のもとでした。 |